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札幌地方裁判所 昭和25年(ワ)190号 判決

原告 磯部木材工業株式会社

被告 新川信次郎

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し別紙<省略>第一目録記載の土地を、同地上にある別紙第二目録記載の建物を収去して明渡せ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求原因として、「札幌市北三条東十丁目十八番地のうち宅地千七百八十坪七合五勺は、斎藤甚之助のものであるが、同人は昭和十五年三月三十一日被告に対して右宅地をその一部(北三条局に接する約二百五十坪)は建物建設用地として他の部分(本件土地を含む)は木材置場用地として、期間を十年と定めて賃貸し被告は該地上に別紙第二目録記載の建物等を所有し来つたものである。昭和二十五年三月十八日右甚之助は右宅地のうち七百八十七坪六合三勺を原告に売渡し、同年四月二十日右宅地全部を分筆した上原告に売渡した部分は別紙第一目録記載のように同番地の四、十六、二十四の三筆に分筆登記し、同日原告名義にその所有権移転登記を了した。右賃貸借契約は昭和十五年三月三十一日以降十年の後である昭和二十五年三月三十一日の経過と共に終了するので、甚之助は期間満了前である同年三月二十日および同月三十一日の両度に亘つて被告に対し、右期間満了後は契約を更新しない旨を通知した。原告も同月二十八日被告に対して、本件土地は原告の所有に帰したから、同年四月以降は原告に於て使用する旨の通告をした。然るに被告は同年三月三十一日を経過してもなお本件土地を明渡さず、その地上に別紙第二目録記載の建物等を所有使用しているから原告はその所有権に基き被告に対し、右地上建物等を収去し本件土地の明渡を求めるため本訴におよんだ。」と陳述し、

被告の抗弁に対して次のように述べた。

被告と斎藤甚之助との間に昭和十五年三月三十一日成立した本件土地を含む千七百八十坪七合五勺の賃貸借契約の内容の要旨は、期間は十ケ年、目的は (イ) 北三条局に接する約二百五十坪は建物建設用 (ロ) 本件土地を含む爾余の部分は木材置場用であつて、右二個の目的は右の千七百八十坪七合五勺の地域内において、それぞれ範囲場所が契約当初から区分指定されていたものであるから、本件土地は前記木材置場用地に属し建物建設用地ではなく、従つて建物所有の目的に出たものとして借地法の適用を受け得ないものである。故に右賃貸借契約は昭和二十五年三月三十一日の期間満了によつて消滅に帰しもはや被告の賃借権は存続していない。

仮りに賃借目的が前述のように当初から二個に区分指定されたものでないとしても、借地法にいう建物所有の目的のおよぶ範囲は建物そのものの所有に通常必要な範囲であるべきであつて、本件土地の一部に被告の撰別場、共同住宅が存立しているものの未登記でしかもその範囲は小部分であつて専ら建物と称しえない原木置場並に材木立場として使用されているのである。なお本件土地の隣接地に被告主張のような登記した建物があることはそのとおりであるがそれはその範囲にとどまるべきで、本件土地にはおよばないものと解すべきであるから、結局本件土地については借地法の適用はないものである。故に借地法の適用を前提とする被告の抗弁は理由がない。

仮りに本件土地を含む千七百八十坪七合五勺の全地域について借地法の適用があり建物所有目的の賃借権が存続するとしても、現に登記建物のない部分を所有者が分筆の上譲渡した場合は、該部分については分筆前存在した賃借権も消滅して更地となるものであるから、その地上に登記ある建物の存在しない本件土地には到底「建物保護に関する法律」の適用はなく、これを買受けて新所有者となつた原告に対して、被告はその未登記の賃借権を以て対抗することはできない。故に被告の同法の適用を前提とする抗弁も亦理由がない。<立証省略>

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として、「原告主張の事実中、被告が昭和十五年三月三十一日斎藤甚之助から札幌市北三条東十丁目十八番地のうち宅地千七百八十坪七合五勺を賃借して該地上に別紙第二目録記載のような建物等を所有してきたこと、右甚之助が昭和二十五年三月十八日原告に対し右宅地のうち七百八十七坪六合三勺を原告に売渡したこと、同年四月二十日甚之助が右宅地全部を分筆し原告に売渡した分が原告主張のように同番地の四、十六および二十四の三筆に分筆登記され、即日原告名義にその所有権移転登記がなされたこと、原告が同年三月二十八日被告に対して本件土地は原告の所有に帰したから同年四月以降は原告において使用する旨の通告をなしたこと、被告が同年三月三十一日の経過後も別紙第二目録記載の建物等を所有し本件土地を占有使用していることは孰れもこれを認めるが、被告と甚之助との間の前記賃貸借関係が昭和二十五年三月三十一日の期間満了によつて消滅したことは否認する。その余の事実は知らない。」と陳述し、抗弁として次のように述べた。

被告は昭和十五年三月三十一日甚之助から本件土地を含む宅地千七百八十坪七合五勺の全域を木工場経営のために木工場およびその附属住宅、倉庫等の建物を所有する目的を以て、賃借期間二ケ年、賃料一ケ月金百四十二円四十銭、毎月末日払の約束で賃借したものである。被告は右木工場経営のために前記宅地上に木造亜鉛板葺二階建本家一棟(建坪五十八坪)、及び木造トタン葺平家工場一棟(建坪四十六坪五合)の登記した建物を有するほか、撰別場一棟(七十四坪七合二勺)、従業員詰所一棟(建坪六坪二合)、第一倉庫(建坪二十一坪八合四勺)、第二倉庫(建坪十二坪九合六勺)、第一、二立場(建坪合計二十七坪九合八勺)、第三立場(建坪十九坪一合五勺)、第四立場(九坪六合五勺)、第五立場(三十坪三合五勺)、第六立場(二十五坪五合九勺)、従業員共同住宅一棟(建坪二階二十八坪二合五勺、階下六十八坪四合八勺)及び国有岐線(百三十五米〇四)トロ軌道(六六〇米)等の建物や施設物を有し、それ以外の空地は製材用原木の土場として使用し上半期だけで原木一万六千五百石を仕入れ一ケ月平均二千五百石の製材を生産している。従つて木工場経営のための右「建物所有の目的」は、当然右宅地全域に亘り存するものであるから借地法の適用を受け、右契約所定の二ケ年の賃借期間は同法第十一条により「借地権者に不利なる」契約条件としてその定めがなかつたものと看做され、同法第二条第一項によつて、契約の日から三十年間有効に存続することとなる。しかも被告は右賃借権を以て原告に対抗し得る。分筆の結果被告は本件土地の上には登記した建物はなく、又賃借権の登記もないが、本件土地の隣接地にして分筆前本件土地と一筆をなしていた部分には前述のように木造亜鉛板葺二階建本家一棟(建坪五十八坪)、木造トタン葺平家工場一棟(建坪四十六坪五合)の登記ある建物が存在するばかりでなく本件土地上にも未登記建物が存在し、しかも本件土地を含め千七百八十坪七合五勺の賃借地の全域が密接不可分な一体として占有使用して来たものであるから、もとより一筆の一部である本件土地に対しても、「その地上に登記ある建物を所有する」ものとして当然「建物保護に関する法律」第一条第一項の適用を受けるものである。このことは分筆登記により何ら妨げられる理由はないから、被告は賃貸人の地位を承継した原告に対し右賃借権を以て対抗することができるものである。

以上の次第で原告の本訴請求は失当であるからこれに応ずることはできない。<立証省略>

三、理  由

札幌市北三条東十丁目十八番地のうち宅地千七百八十坪七合五勺がもと斎藤甚之助の所有に属していたこと、昭和十五年三月三十一日被告が右甚之助から右宅地を賃借しそのうち七百八十七坪六合三勺(別紙第一目録記載の土地)につき原告主張のような建物、施設物等を所有し他の部分九百九十三坪一合二勺とともに占有使用していることは当事者間に争いがなく、右九百九十三坪一合二勺の部分には木造亜鉛板葺二階建本家一棟、木造トタン葺平家工場一棟第一倉庫、物置、製材撰別場、立場、トロ軌道等の建物および施設物が存在することは鑑定人阿部庄一の鑑定の結果並びに検証の結果により明らかである。

そして成立に争いのない乙第六号証の記載および被告本人の供述によれば、右賃貸借の内容は期間は昭和十五年四月一日より昭和十七年三月末日迄満二ケ年、賃料は一ケ月金百四十二円四十銭で毎月末日払のこと、しかも右賃貸借は木工場およびその附属住宅、倉庫等の建築用地とする目的でなされたものであることが認められる右認定に反する甲第二号証の二の記載内容はたやすく信用できないし他に右認定をくつがえすような証拠はない。

そこで右賃貸借につき借地法の適用の有無、範囲について争いがあるのでこの点について判断する。

思うに、借地法にいう「建物所有の目的」とは、土地賃借の主たる目的が建物の所有にある場合をいうのであつて、しかもその主たる目的が建物所有にある場合であつても、その目的のおよぶ範囲は自ら限度があるものでそれは建物の所有に通常必要な範囲でなければならない。このことは原告のいうとおりである。しかしながらその必要範囲は所有し又は所有しようとする建物の種類、性質等によつて異るものと解しなければならない。

本件についてこれを見るならば、前示の判断に明かなように本件賃貸借契約は賃借地全域を密接不可分な一体として、製材事業経営のため木工場およびその附属住宅、倉庫等の建築用地とする目的で締結されたものでその主たる目的は疑いもなく木工場なる建物の所有にあるものということができる。

そうだとすれば木工場なる建物の所有に通常必要なる範囲はどうか。それはその木工場の規模、生産能力等によつて異り、劃一的に決定されるべきものではなくして、木工場なる建物の存立とその利用とを全からしめるに足る範囲でなければならない。

証人藤島春治の証言および被告本人の供述並びに検証(第一、二回)の結果を合せ考えれば、木工場の存立とその利用とを全からしめるには原木を貯蔵する土場や製材の立場が絶対必要であり本件係争地がその大部分を占めていること、被告の木工場には三十馬力、十五馬力、一、五馬力、一馬力各一台の製材機が備え付けられ、その製材能力は月二千石で、その為には月四、五千石の原木の貯蔵を要すること従つてこれら原木の貯蔵場所である土場や、製材を置く立場、作業用地等がなければ木工場所有の目的が達しえられないものであることが認められる。(この認定をくつがえすに足る証拠はない。)この事実に原告の自認する本件係争地には未登記ではあるが、共同住宅一棟、第二倉庫一棟、職員詰所一棟がありかつ、製材撰別場の一部が右地上に跨つて存在している事実を考え合せると他に特段の事情の認めがたい本件においては本件賃貸借は千七百八十坪七合五勺の全域が「建物所有の目的」を以てなされたものと認めるのが相当である。

従つて本件賃貸借はその目的土地全部につき借地法の適用があるものといわなければならない。そうすると同法第十一条によつて、本件契約で定めた二ケ年の賃借期間は同法第二条の規定に反する借地権者に不利益な契約条件として定めなかつたものとなるから同法第二条第一項の規定により、本件賃借期間は契約締結の当初から三十年間存続することとなる。この点に関する原告の主張は右と見解を異にするものでその理由がないから、到底採用するわけにいかない。

そして本件賃借地千七百八十坪七合五勺のうち七百八十七坪六合三勺が昭和二十五年三月十八日甚之助から原告に売渡されたこと、その後同年四月二十日甚之助は右賃借地全部を数筆に分筆し原告に売渡した部分を別紙第一目録記載のように十八番地の四、十六、二十四の三筆に分筆登記したうえ原告名義にその所有権移転登記がなされたことは当事者間に争いがない。

しかしながら分筆は、単に一個の土地を数個独立の土地に分割するのみであつて、これによりその土地の同一性に変革を生ずるものでないことは不動産登記法第八十二条乃至第八十四条の規定に照して明かなところであるから分筆のため何ら被告の賃借権に消長を来すことがないものと解する。

従つて原告は右目録記載の土地につき賃貸人たる地位を承継したものということができる。

次いで被告の右賃借権は原告に対抗しうるかどうかについて判断する。

「建物保護に関する法律」によつて対抗力を取得する土地賃借権は、「建物所有の目的」を有するもので且つ土地賃借人が該地上に登記ある建物を有する場合でなければならないことは同法第一条第一項の規定に照し明らかなところである。

被告が前記第一目録記載の土地についてなお「建物所有の目的」をもつた賃借権を有することは前記の判断に示したとおりで、しかも賃借人たる被告が分筆前本件土地と共に一筆をなしていた隣接地上に木造亜鉛板葺二階建本家一棟および木造トタン葺平家工場一棟の登記ある建物を所有し現在なお存立していることは当事者間に争いないし、右建物のほか前記認定のように四棟の未登記建物がありこれらの建物所有の目的のためには本件土地を含めた賃借地の全域が通常必要な範囲として認められることは前示判断のとおりであるから、当然その全域について賃借人たる被告が該地上に登記ある建物を所有するものとして、「建物保護に関する法律」の適用を受け本件土地も亦その一部として当然同法の適用を受けるものといわなければならない。

このことは分筆の前後によつてその理由を異にすべき筋合のものでないからたとえ分筆後の本件土地上に被告が登記ある建物を有しないからといつて、同法の保護を阻止すべきいわれはない。

従つて被告の右賃借権は、同法第一条第一項により、本件土地の買受人である原告に対し対抗しうることは明らかであるこの点に関する原告の主張も亦その理由がないから採用しない。

以上に認定したとおり被告の本件土地の占有は正権原に基く適法なものといえるから被告が本件土地を不法に占拠することを理由としてなされた原告の本訴請求は失当であり、到底棄却を免れない。よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 飯島幾太郎)

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